lao_20th
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挿図19 禅定印坐像ワット・シープッタバートワット・スワンナプーマラーム挿図20 禅定印坐像88挿図21 禅定印坐像ワット・タートルアン ルアンパバーンまとめ 以上で述べた作例のほかにも、ルアンパバーン市内の寺院ではナーガ仏が散見されるが、より後代の特徴が強く、14世紀以降も信仰対象としてナーガ仏の造像がわずかならも続いていたことを示している。一般にこれらの作例もクメール美術の範疇で捉えられていることがあるため、ここで2例見ておきたい。 まずワット・シープッタバートのナーガ仏(挿図19)は全高30㎝程度の小さな像で、光背が全身と比べて小さすぎ、首や胴が短く、顔がどんぐり状になっている。眉・目・口の特徴はワンチャン洞窟像に類例があり、首飾りや腕釧にも地方的特徴が強い。 もう一例ワット・スワンナプーマラームのナーガ仏石像(挿図20)は全体的なバランスはよいが、宝冠・首飾は新しい表現で、顔の表現も眉や鼻にはタイ美術の影響が見られる。一方指先を突合せた禅定印や、ワット・シープッタバート像とも共通する短いナーガの鼻などに地方的な特徴も示している。その他 ワット・タートルアンの仏堂にあるもう一体の石仏(挿図21)は、金箔あるいは金泥に覆われているが、全身がよく残っている。伏し目や微笑みを浮かべた口元、肉付きのよい体躯などバイヨン期由来の特徴が見られる。額の上に残る前髪飾りの痕跡は、バンテアイクデイ廃仏にも類例が見られる。一方蓮弁装飾のない弾頭形の冠はウートーン第1様式の作例に近く、大きな手や緩い半跏趺坐の脚組み、前側に傾斜した足裏、狭い膝幅といった特徴はタイ東北部のドヴァーラヴァティー様式にそのルーツが求められる。以上の特徴からこの像は13世紀後半から14世紀の前半に作られたと考えられる。 王宮博物館が所蔵する蓮弁状の光背を持つ一体の仏像(挿図22)はその光背の形状から仏龕に納められていた像かもしれないが、これまでルアンパバーンでクメール建築跡は見つかっていない。体躯は上述のいくつかの像同様肉付きがよく、末広がりの円錐形冠や前髪飾りの痕跡も見られる。微笑みをたたえているが唇は細い。上半身には偏袒右肩と左肩から垂下する布(サンカーティ)が線刻されているが、後世に手が加えられたものかもしれない。狭い膝幅や手足の硬い表現は地方的特徴で、やはり13世紀後半から14世紀の作と考えられる。 本稿ではまず、ラオス・カンボジア・タイの関連文献史料を見ながら時代背景を描き出した。ラオス年代記にあるカンボジアからの仏教伝来とパバーン仏の請来は、カンボジア史料では確認でき

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