lao_20th
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6419 2001年度に設置された警察庁の検討会である総合セキュリティ対策会議の2009年度報告書「インターネット・オークションにおける盗品の流通防止対策についめて容易になった現在、スマートフォン一つあればすぐにも最初の段階は始められる条件が整いつつある。 最初の段階とは社寺の全仏像を大小・指定未指定問わず写真に撮り貯め(一体十枚程度を目安に)、数を数え、大きさ(像高=頭頂部から足先までの高さと総高=像高+台座の高さの両方)を測り記録することである。誰が調査するか。仏像の所有者・管理者、氏子・檀家の総代、地域コミュニティの代表などの小さなグループが良いだろう。取得した情報もグループ内だけで管理する。このやり方でまずはそれぞれの地域で全社寺の簡単な調査・記録を完結させていく。各地域の活動が軌道に乗って、市町村の範囲をカバーできたら次の段階に進む。ここまでの調査データがその後の大切な基礎になるが、同時にこの段階でネットなどを使って一般には未紹介の仏像写真を外部に発信してしまうと観光客より先に窃盗犯を呼び寄せてしまいかねないのでデータの慎重管理が求められる。情報の公開と秘匿は所有者・管理者が決めるのは当然のことであるが、SNS優先の昨今の風潮の前でスマートフォン撮影に対する甘さ(要するに黙認や野放し状態)がないだろうか。公開と秘匿の切り分けに配慮が必要である。 第二段階では行政の文化財保護担当者、市町村の文化財審議員などに加わってもらい、各地域で実施された調査データの取りまとめと管理を実施し、専門家による本格的調査(3D計測も含め)の必要性、文化財指定の可能性、修復及び「お身代わり仏」の必要性、災害・盗難防止策などを検討し、予算措置も行う。 第三段階は上記各検討結果に基づく各事業実施である。必要な修復や「お身代わり仏」が完成し、収蔵庫等の防犯施設が出来上がって仏像の「安全」が保たれてから公開と活用(主として観光)に至るのが望ましいが、修復等に先立って文化財指定→公開→観光活用という流れになることもやむを得ない。ただその場合でもなるべく速やかに仏像の「安全」対策が施されなければならない。なお、ここでの「安全」とは盗難そのものの未然防止、仏像盗難被害の早期発見と緊急手配、盗難仏発見後の仏像確認と返還、行方不明仏の3D復元等々の諸対策を事前に準備しておいてこそ保障されるものである。 社寺とそこに安置される「仏像」は美術的・歴史的価値(これに優れたものが文化財に指定される)だけでなく、信仰の対象であり、また地域の象徴でもある。この観点からすれば仏像に価値の優劣はなく、失われて構わないものなど一つもない。 ここまで仏像所有者・管理者や地域コミュニティ等が主体的に取り組むべき、また、取り組める盗難対策について述べてきたが、言うまでもないことながら行政その他にも大きな役割がある。これについていくつか触れておきたい。・今後、各地で無住の社寺が増えることは確実だろう。そうなった時に仏像を博物館・資料館に収蔵すれば安全だという論議が起こることが予想されるが、果たしてどれだけの収蔵許容量があるのかを早い時期から検討しておく必要がある。残念ながら多くの博物館・資料館はたちまちパンクするだろうと考えられる。収蔵庫が満杯になるだけでなく、管理業務が大きな負担になることが懸念される。・美術品盗難事件にはしばしば「闇の故買ルート」、「国際マフィア」、「警察や軍もグルになって」といった話が付きまとう。その真偽は不明であるが、「都市伝説」的なものに惑わされず各地の捜査当局の活動を冷静に注視するしかない。それよりも一日も早い対策が求められているのは目の前にある「明るい故買ルート」、すなわちオークション・サイトではないだろうか。個人によるネット・オークションにかけられる仏像の大部分は玩具か、他愛ないニセモノで、盗品の出品は稀にしかないのだろうとは思うが,国内外のオークション・サイトを閲覧して価格の高さを見た人間が「ここに故買ルートがあるかも知れない」と考えるとしたら、犯行を教唆することになりかねない。サイトの管理・運営方法について警察、サイト運営者、その他関係者の間で真剣かつ早急な検討を期待する19。2.盗難の未然防止のために

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