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6315 仏像盗難については朝日新聞2018年8月15・16・21日に関連記事。16 http://www.hanzai.net/temple/index.htm 2021年6月1日閲覧。17 立命館大学歴史都市防災研所 歴史都市防災論文集Vol.82014年18 朴ジョンウン・崔青林・金玟淑・谷口仁士「文化財所有者を対象とした人災・獣害の現状と防御システムに関する調査研究」立命館大学歴史都市防災研所 歴史都市防災論文集Vol.72013年第三節 仏像盗難対策の提案―まとめにかえて1.地域の仏像悉皆把握のためにレクターは国内だけでなく台湾や中国にも多く、海外に転売されるというケースもあるそうです。ものにもよりますが、数万円から数十万円で取引され、愛知県内では寺から仏像などが盗まれる被害がここ5年で20件から30件ほど発生しています。愛知県警では無人の寺には防犯カメラを設置するなどの対策を呼びかけています」と書かれている。 朝日新聞社は2018年8月15日から集中連載「消えゆく文化財」の中で仏像盗難を取り上げ、世人の関心を高めるうえで効果があったものと思う15。 盗難対策が具体的に提案されていたのに関連して警備・防犯関連会社のサイトを見ることにする。「セキュリティハウス」の「防犯大百科」には寺・神社の犯罪事情と対策が掲載されており16、「被害の大半は文化財の指定を受けていない」し、社寺が「犯人にとって『犯行しやすい環境』」であると指摘している。防犯対策として、センサーや監視カメラ、施錠の有効性を挙げているのは会社として当然のことであるが、地域ぐるみで防犯意識を高めること、連絡網作り、写真と記録の重要性、小さな被害を放置して次の犯罪を誘致しないことなど、運用面の大切さを強調しているのは見識である。また、同サイト内の「今日巷で話題の犯罪について防犯のプロが語る」ページの「仏像盗難」記事は具体的な被害金額にまで触れていて―情報の出典が不明な場合があるのが残念であるが―参考になる。 会社のものではないが、金玟淑・谷口仁士『文化財の盗難被害と防御システムの実態に関する研究17』は2012年に実施した寺社の文化財所有者対象のアンケート結果18を引用して、「盗難被害に逢ったことがある文化財所有者の60.0%がソフト対策5.警備・防犯関連会社等の資料からとしての巡視を実施しており、過半数以上がハード対策としての防犯設備(施錠、警報装置、照明、機械警備、防犯カメラ)を取り入れている」としている。アンケート調査では回答者の偏り(この場合では人為的被害に遭った寺社のほうが防災意識が高く、回答率も高くなる傾向)を無視できないので、この結果をそのまま全国の寺社に当てはめて良いものか疑問ではあるが、防犯対策の実効性には限界があることが推測できるのではないだろうか。この論文にも触れられているように、盗難被害の背景には、宗教施設であることによる開放性、無住社寺の増加、氏子・檀家の減少による経済的逼迫などの根深い問題が存在し、どれもにわかには打開しがたい。そこで、一方では補助金の支援などを通じた警備システムの増強、他方では社寺自体と地域社会の文化財に対する関心を高めて犯罪を抑止する方策を進めていくことが求められる。後者について仏像に絞って具体的に考えるなら、先にも述べたことであるが、まず記録しデータを集積しておくことがすぐにも必要である。次節で盗難対策についてまとめておきたい。 以上述べてきたように日本における仏像盗難の全容は必ずしも明らかではない。少子高齢化、地方の過疎化に伴って今後増加することが懸念されるが、その裏付けデータも見当たらない。仏像の盗難被害届件数と盗難被害の実数は著しく乖離していると想像される。地方自治体や任意団体なら所蔵品管理に遺漏はないだろうが、社寺の場合は所有する仏像、特に未指定のものを確実に把握できているとは限らない。盗難被害に関する不完全なデータに基づいて適確な長期的・組織的な対策が生まれるものか疑問である。こんなところから海外仏像窃盗団の暗躍といった陰謀論めいた言説も生まれて来るのかも知れない。 この問題に対して以前から美術史や文化財保存研究者等から地域全社寺の仏像悉皆調査が必要だと言われてきた。自治体史誌編纂などを機に実現したこともあるが、おおかたは多額の費用と手間がかかるとして退けられてきたように見える。しかし、ITCを駆使して世界中に発信することも極

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