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597国指定の個人所有文化財では盗難以外の所在不明理由が97.1%にのぼる。第二節 日本における仏像盗難の現状1.文化庁資料から 以上を仏像被害としてみた場合、例えば日本の廃仏毀釈やラオスの社会主義化初期の仏教抑圧はBの⑦に分類できる。また、日常的に寺院で仏像を拝む習慣がある両国においてはCの⑨やDの⑪を根絶することは困難であろう(敬虔な上座部仏教徒の多いラオス人が⑪をするとは思いにくいが、欧米や中国からの観光客がほとんど無防備のラオス寺院内で悪戯を働くことは憂慮されている)。そのような被害があるとは言え、仏像が遭遇する様々な被害形態の中でEの盗難こそが仏像の持つ特殊性(人の似姿であり、信仰対象としても,美術品としても所有欲の対象となりやすい)に由来し、かつ今後の深刻化が最も懸念されるのではないかというのが筆者の仮説であり、この考えのもとに考察を進めて行きたい。 まず、基礎的なデータを検討しよう。文化庁は平成末年に数次にわたり国指定文化財(美術工芸品)の所在確認調査を実施してその結果を「国指定文化財(美術工芸品)の所在確認の現況について(別紙1~3含む)」としてホームページ上で公開している。また、「取り戻そう! みんなの文化財~」プロジェクトで盗難を含む所在不明に関する情報提供を呼び掛け、その結果を「所在不明になっている地方指定等文化財(美術工芸品)」及び「所在不明になっている未指定文化財(美術工芸品)」として同じくホームページ上公開している(随時追加4。それらから作成した表1~5を以下に示す。 表2~4の「~取り戻そう!みんなの文化財~」は地方自治体からの行方不明品捜索依頼の言わば掲示板的役割のもので、文化庁の所在確認調査とは少々性格が異なり、文化財所有者の分類法など細部に違いがあるが、ここでは比較しやすいよう42021年5月10日閲覧。表1は「別紙3所在不明の国指定文化財(美術工芸品)一覧」による。2017年末時点の不明品161件から2018年4月までの発見数を差し引いた147件である。表4、5はリストの詳細情報を読み取って作成。なお、文化財損壊と所在不明とは別の概念であるが、一部重なることもある。津波での流失や盗難などはこれに当たる。明に揃えてある。また、「盗難」は盗難届済のもののみを指しているものとして扱う。「彫刻」(仏像・神像・狛犬を含む)、「社寺所有5」、「盗難」の3点に着目して表1を見ると、所在不明国指定文化財(美術工芸品)147件のうち盗難が占める割合(以下、盗難率と呼ぶ)は19.1%であるが、この中で格段に高いのが社寺所有の文化財で、絵画、彫刻、古文書はいずれも100%である。それに次ぐのが財団等の所有、最も低いのは個人所有の文化財で2.9%の盗難率となっている。この傾向は表2にも表れている。全体の盗難率71.9%で、社寺所有の文化財の盗難率は100%、任意団体等も100%であるのに対し、個人所有は25%であるが、うち彫刻は100%で、刀剣は11.1%である。表3では全ジャンルで盗難率100%なので率の比較は無意味である。次に、所在不明文化財のうち彫刻が占める割合(盗難率ではない)を見ると表1では10.2%、表2では40.6%、表3では80.5%と大きく増えている。一方、社寺所有文化財が占める割合も25.2%→40.6%→53.7%と増加している。既述の通り、表2、3はもともとの趣旨が表1とは異なるうえに、総件数が少ないため地域的なばらつきが目立ち(後述)統計としての意味を充分には持たないのでここでは3点の指摘だけにとどめておく。ア:彫刻は盗難以外の理由で所在不明となることが少ない6。イ:社寺所有の文化財は盗難以外の理由で所在不明となることが少なく、財団等所有文化財がこれに次ぐ7。ウ:地方指定文化財、未指定文化財となるにつれ社寺所有彫刻の盗難報告例が増えている。 表4は報告例が少なく格別の傾向を読み取ることは難しい。都道府県指定(9件)と市町村指定(4件)が区別されているが、全体に散らばっているように見える。表5では多少報告例が増えたものの、(表3も同じ事情なのだが)そもそも「未指定文化財」の所在確認をどのように実施し、報告5文化庁資料では個人所有の場合は当然ながら、社寺、財団等、任意団体についても名称は明かされていない。6これと対照的なのは刀剣で、国指定の場合は6.7%に過ぎず、その所在不明理由は多岐にわたるうえ理由自体がはっきりしない例が少なくないようである。

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