573大河内智之2019「博物館機能を活用した仏像盗難被害対策について―展覧会開催と『お身代わり仏像』による地域文化の保全活動―」和歌山県立博物館研究紀要第25号。① 修復作業の担保-可逆性担保と作業詳細記録(既述)② 学術資料化-美術史学、歴史学、銘文研究、文化人類学、考古学、宗教学など③ ミュージアム的活用-観光やゲームにも活用可能④ 管理・盗難対策-2次元の写真に比べて全アングルからの個体識別可能⑤ 3D複製制作のデータ取得 このうち本項では④を、次項では⑤を扱う。上述の通り3D計測にはいくつかの方式があり、さまざまな機器・ソフトが提案されているが、仏像の個体識別用途に限れば比較的ラフな3D合成像でも実用上あまり問題はないと思われるので予算、機材サイズ、測定及び処理の時間、人手と熟練度等を勘案して条件の合ったものを選定すれば良いだろう。投光式計測の3Dスキャナーについては低価格機種の性能向上が著しいし、一方の非投光式においてもSfM-MVS(=StructurefromMotionandMulti-viewStereo 3次元デジタル写真計測)ソフトの進化には目を見張るものがある。 計測のための様々な選択肢が用意されるようになったのは歓迎すべきであるが、そのぶんいくつか考えておくべき点がある。まず、その時点でどれだけ高性能のものであっても3D技術の分野ではすぐに低価格高性能を売り物にした新機種、新ソフトが開発される。窃盗犯は待ってくれない。性能などにあまりこだわらずにそこそこの機材でも良いからなるべく早く計測作業に着手してたくさんのデータを撮り貯めるべきだろう(ただし、再撮影は避けたいので古いデータの互換性は確保しておきたい)。次に複数の方式・機種の使い分け(あるいは併用)の得失が気になるところだが、最終的なデータ統合時(それは警察、税関等に3D合成像を提供する時という意味。照合ソフトの開発が今後の課題であるが)に不都合がなければいくつかを併用してなるべく測定点数をふやす方が利点が大きい。例えば、等身サイズの像はハンドヘルドのスキャナーで測定し、小型の仏像は回転角度を制御できる回転台上に置いてデジカメでスピーディーに撮影するという風に。また、個体識別用途に限れば比較的ラフな3D合成像でも可とは言ったが、データ取得自体がラフで良いというわけではない。確実にデータが取れていることを計測現場で確認できないような手法は採用すべきでない。仏像計測を許される機会は一度きりという覚悟を持つべきである。別角度から言えば、現場での確認結果を所有者・管理者や地域コミュニティの人々に示して仏像を守るための計測であることを知ってもらい、この仕事への理解者をふやすためにも大いに役立つだろう。もう一つ、個体識別に用途を限定しその代わり大量計測する作業と、修復や3Dプリンティングの用途にも使えるように時間をかけても高精細のデータを収集する作業との配分を意識する必要がある。どの学生対象③ 盗難防止のための「お身代わり仏像」制作④ 喪失(盗難・自然災害による行方不明及び焼失)及び破損・焼損した仏像の復元 これらのうち本項では盗難に関連した③④を扱う。③は盗難に遭う前に「お身代わり」を作って入れ替えておき本物は安全なところに避難しておくわけだから言わば究極の盗難対策である。④は喪失後に再現しようということなので盗難対策とはやや言いにくいところがある。事後次善の策というべきか。 ラオスで3D計測を始めて半年後、2018年9月和歌山県立博物館にて企画展「和歌山の文化財を守る-仏像盗難防止対策と近年の文化財修理」が開催された。同館の紀要3によれば、同展に先立って2010年から同趣旨の展覧会が8回開催されていたようだが、2018年の展示は3Dプリンティングの成果も盛った総合的なもので、筆者の構想していたことが既に形になっているのを見て大いに参8.3D造形による複製 仏像の3D造形の主な目的として次の事柄が考えられる。① 博物館展示・学術研究用途-展示用のレプリカや模型制作(拡大・縮小可能)、X線CT像からの立体化や制作当初復元などさまざまな可能性② 教材用途-美術工芸、修復技術、美術史学な
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