551日本では2019年の改正動物愛護法によりペットにマイクロチップ装着と所有者情報登録とが義務及び努力義務化されることになった。うなると、もう一つの担い手は地域コミュニティであろう。日本で言えば氏子・檀家に当たる人々、ラオスなら「村長」的な地域の有力者たちが寺院や仏像の保護に力を尽くしている例は少なくない。この人たちの防犯意識をさらに高めることはどの国においても現実的かつ効果的だろう。3.位置情報 ラオスの大きな寺院、例えば世界遺産の街ルアンパバンを代表的する寺院ワット・ヴィスンナラートVatVisounnarath(またはWatWisunarath、WatVisounなど、固有名詞のローマ字表記は一定しないことがある)の「本堂」内には大小取り混ぜて優に百体を超える仏像が「安置」されているが、毎年訪れる度にその位置が動いていることに気付かされた。僧侶たちや寄進者たちの考えや都合で仏像が移されてしまうと管理上大きな問題が生ずる。 ラオスの仏像は基本的に仏陀像であり立像・坐像、大きさ・材質の差はあれ、(例えば日本の仏像と比べれば)かなり似通っているうえに圧倒的に数が多く「須弥壇」上に所狭しと置かれているので、盗まれたのか、移されただけなのかをすぐに判断することは困難である。仏像の位置情報をリアルタイムで把握する手段として一体ごとに発信機を埋め込み、盗まれてもGPS(=GlobalPostion-ingSystem衛星の位置測位システム)で追跡可能、というのは今のところまだ夢物語に近い。図書館の配架システムのように、RFID(=RadioFrequencyIdentifier非接触無線通信IC識別票)を仏像の底面に取り付けておき、「須弥壇」に仕込んだアンテナで位置を知るという方法はどうだろう。「須弥壇」上にある限りでなら多少役立つかもしれないが、「壇」上からの持ち去り防止にはあまり意味がないだろう。 このような「対策」とは別に、観光のための位置情報提供システムという考え方もあり得る。つまり、スマートフォンなどを介して最寄りの寺院及び仏像の位置情報を提供する、仏像と一緒に記念撮影した写真に位置情報を付加して発信する、といった諸サービスも既に世界規模で普及しつつある。さらに、GoogleStreetView屋内版のサービスが世界のどこでも利用できるようになれば寺院や仏像の紹介に相当な効果があると思われる。これらにより仏像の貴重さに対する認識が進み、観光収入も生まれるとすれば歓迎すべき点があるが、同時に犯罪者にも仏像情報が提供されることは避けられない。4.全天球カメラ 前項のGoogleStreetView屋内版は上下左右360°の合成画像を提供するサービスであるが、立体感・臨場感の高いVR空間を比較的安価に作り出せるのが360°全天球カメラ+ゴーグルで、簡易的なヴァーチャル・ミュージアムが生まれる。COVID-19の世界的流行により世界各国の博物館では新しい観覧形態を探っているが、通常の拝観ができなくなっている寺院にも同じような取り組みが求められている。その一つとして一般観光客の立ち入りを禁止もしくは厳しく制限する代わりに全天球カメラ等による仮想空間での拝観ができるようにするという方法が考えられる。これを防犯対策として見ると、プロの犯罪者は防げなくても観光客の無思慮な窃盗や悪戯はかなり防げるのではないだろうか。5.個体識別用標識 ここからは直接的な防犯対策ではなく、盗難に遭った仏像が発見された際の個体識別を目的とする。間接的にではあるが犯罪抑止効果を持つものと期待できる。 従来の紙ラベルや記号の書き込みでは剥がされたり消されたりすれば役に立たないので、新しい技術を検討しよう。まずRFIDである。前々項で位置情報取得のツールとして取り上げたが、むしろ個体識別が本来の使いかただろう。小さく安いICチップにID番号を書き込みアンテナとともに商品などに貼り付け、受信機で読み出すという方法で、既に一般化している技術1であるが、これを仏像に使えるだろうか。技術的には問題はないものと思う。木像・塑像の修理時に適切な箇所に埋め込んで(この場合は前々項のように底面に限る必要はなく、また受信機が高性能ならば表面から
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