(図1)25身延山大学仏教学部 特任講師キーワード:ラオス,伝統的素材,顔料,セメント,カモーク1. 背 景2. 赤土の顔料の実験 ラオス国民の記憶の限り、赤、黄色と黒色の土を使って伝統的顔料を作ってきた。 ルアンプラバン市内では、いくつかの寺院や壁に赤と黄色の伝統的顔料が使用されている。具体例として、VatSeneに赤い土の顔料が塗られている建物があり、黄色の顔料はVatPaPhonphaoの壁に塗られている。また、仏像の金箔の下地として、赤土の顔料が使われてきた。本研究で赤と黄色の土の顔料を調査した。顔料の作成方法と劣化を中心に研究を進めた。 身延山大学の調査以前に、ラオスの伝統的な赤土の顔料についてUNESCOが公式調査を行い、LAIT DE CHAUX ET BADIGEONS A LA CHAUX(FASCICULE No 3: MISE EN OEUVRE DES MATERIAUX)の報告を残した。しかし、このレポートに作成法が一つしか記載されておらず、正確な数値的データは含まれていない。また、黄色の伝統的顔料が調査対象に含まれていない。 身延山大学とラオス情報文化省の共同プロジェクトであるラオス世界遺産地域内仏像修復事業の一環として、2014年2月から3月にかけて赤土の顔料について5人、黄色土の顔料について3人に聞き取り調査を行った。赤土の顔料に関して4つの異なる作成法の報告があり、黄色土の顔料に関して、1つの作成法を確認できた。 近年、伝統的の赤土の顔料を作ることが金銭的にも労働力的にも負担に思われ、安く市販されている塗料が代用されることが多い。記録を残さなければ作成法を知る人がいなくなる可能性がある。黄色土の顔料に用いられる黄土はXiangNgeun村地方に多量に存在するもので、自由に無料で採取することができるため、住民が使い切らない限り周辺の家の壁等の塗料としての利用が続くであろう。 ラオスの伝統的な赤土の顔料に使われる赤い土には「dine-deng」と「dine-harng」という2つの名前がある。「dine-deng」は「赤い土」を意味し、最も単純かつ最も頻繁に使われている表現である。「Dine-harng」は「火山の尻尾」を意味し、赤土の原産地として有名なPeo村の人々に使われている表現である。塗った顔料が深い錆色になるので、火山に喩えられているのである。本研究では、Peo村の「dine-harng」と呼ばれる土が使われているので、「dine-harng」と表記する。二種類のラオスの伝統的顔料ジル・エマ・ストロースマン,池田優季名ジル・エマ・ストロースマンラオスの仏像に使われた伝統的な素材
元のページ ../index.html#27