図6 熱重合漆図7 試作したカモク①20①130℃サンプリング②140℃サンプリング③150℃サンプリング(より高い温度で加熱した熱重合漆の粘度が高く、垂れが少ない様子が分かる)③②①① 電磁調理器上にフライパンを置き、15gの漆を入れ加熱を開始。② しっかり攪拌しながらゆっくり加熱。70℃過ぎたぐらいで泡が発生。125℃10分。③ しっかり攪拌。130~150℃20分。④ しっかり攪拌。150~160℃30分。 ここで、「しっかり攪拌する」とは、漆の中に空気を吹き込み、乾燥性を向上させることを意味する。漆の温度が上がると粘度が低くなり、しゃぶしゃぶの状態になる(①~③)。150℃以上になると、粘度は低い状態のままであるが、注意してみると③の終了時の粘度がやや上昇している。常温に戻すと、漆の粘度はかなり高くなっている。以上のプロセスは、主成分であるチチオールの熱重合が起こっていることを示している。しかし、常温放置(温度約20~35℃、湿度約25~75%RH)では、滞在中に乾燥はしなかった(5日たっても乾燥していない)。その様子を図6に示す。乾燥性を改善するにはさらに加熱時間長くし、温度を上げることが必要と考えられる。② 熱重合漆を電磁調理器上(デジタル目盛100℃)で、少しずつしっかりヘラで混練しながらキタオを加え、使用用途による粘度(硬さ)に調製。キタオの濃度は75wt%程度となった(なお、仏像修復所では、熱重合漆の固形分を正確に測定することが出来ないため、キタオの濃度は正確な固形分比ではなく、目安として考える)。カモク自身の粘度は①<②。キタオの濃度も①<②である。これらは滞在中(製造後5日間)では乾燥していないものの、表層はベトベト感がなく乾燥が進んでいることが分かった。そのときの上記カモク①の様子を図7に示す。 以上の試みから、これまでのカモクの問題点を解決するための基本的な考え方は、① 漆をしっかり加熱することで、熱重合漆自身の乾燥性を向上させる。結果的には、カモクの乾燥が向上する。② 漆をしっかり加熱することで、チチオールの重合度を上げ熱重合漆の粘度を高くする。結果的には、同じ粘度のカモクとした場合、混練するキタオの量が少ない。つまりカモク自身の割れ発生の確率が低くなる。3-3.キタオの混練 キタオを熱重合漆に混練する。つまりカモクの製造である。修復所の技術者が製造する方法やその粘度の様子から、いくつかの製造条件を試してみた。その一例を下記に示す。① 熱重合漆を常温で、少しずつしっかりヘラで混練しながらキタオを加え、使用用途に適した粘度(固さ)に調製。キタオの濃度は71wt%程度となった。
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