16終わりに修復だった為、我々のプロジェクトの必要性が認識された気がする。 いずれにしても、寺院から修復依頼が無ければ修復は行えないわけで、その為には信頼関係は言うまでもなく、修復のクオリティーの高さが重要だと考えている。 とりわけ、ブロンズ仏像に関しては更にその傾向が強く、寺院及び地域からの修復依頼のほとんどは、欠損箇所の復元であった。 これは戦乱等で仏像の首が持ち去られ、破壊されてしまった例が多いためで、第19回プロジェクトにおいてはワット・シェンムアンから依頼があった。日本においては、全く資料のないブロンズ頭部を鋳造して付けるなどあり得ないが、首を持ち去られてなお仏像として信仰を続けるラオス人にとって、仏像の首を取り戻すことは、地域住民の悲願であったのだ。 幸運な事に、我々のプロジェクトは木彫仏像の制作技術の他に、ブロンズ制作の経験もあった。ゆえに、この依頼に対応することが出来た。 ワット・アーパイの中央漆喰仏の破損が数年前より急激に進んでいる。当プロジェクトにおいても、漆喰仏の修復方法は、当初より模索してきたが未だ十分とは言えない。しかし崩壊していく現状を見るにつけ、とりあえず何らかの手を打たざるをえないと考えている。 現地行政機関も、寺院側からの依頼で解決を図ったらしいが、亀裂箇所にいきなりモルタルを詰め、ペンキを塗る処置が行われてあった。結果、更なる崩壊が進み、寺院側及び地域住民の嘆きと怒りは増し、我々のプロジェクトにすがる思いで依頼があった。 この事例は緊急性を要し、また我々と地域住民の関係が良好である事などを考慮した上で、日頃からの協力に報い、なんとか仏像の崩壊を防ぎたいという思いから修復に着手した。 ただし、漆喰仏の調査研究は十分とは言えないため、取り敢えず危険個所のモルタルの除去・ペンキの除去・アンカー等による補強を行い、現在明らかになっているラオス古来の漆パタイフン喰を使用した破損個所のモデリングを行い、カモク下地にナムキャン(漆)を使用して金箔・古色を施した。 修復方法と研究不足のリスクについては、地域住民に十分な説明を行い、合意の上で修復を行った。また、あくまで一時的な処置である為、準備を整えた後に数年をかけて修復する事で了解を得た。 仏像修復プロジェクトは、日本以外には手の出しにくい分野である。しかしながら、当プロジェクト実施地域が偶然にも世界遺産に指定され、さらに修復を必要とする仏像群が多数存在していた事などにより、我々のプロジェクトが必要とされたのだと思う。 以来今日まで19年間続けてきたが、その間プロジェクトへの信頼に比例して、各方面から修復に対する様々な要望が出された。特に、ブロンズ仏像と漆喰仏像の修復は要望が多く、ブロンズは数年前から、漆喰仏は今年から行っている。 本稿では20周年の歩みを扱ったが、ほんの一部しか紹介出来なかった。長期にわたるプロジェクトの為、それなりの成果と実績はあったと思うが、反面多くの課題が残った。さらに、課題は増えていくばかりで終わりが見えない。こうして見ると、プロジェクトを続ける上で今一度目的を再確認しつつ、活動の整理が必要だと感じた。 振り返れば、いつもラオスに仏像修復が根付く事、あるいはラオスの現状に適した修復を目指して来た気がする。20年間続けられた過程や、ラオススタッフ及び地域住民との良好な関係を見るに十分とは言えないまでも、ある程度目的は果たせたと自負している。しかしラオスの長い歴史が培って来た文化(仏像)から見ればほんの一歩にも満たない。 今後は修復のクオリティーの追求と並行して、次世代の人材確保が重要になってくると思われる。よって、より多くの人々にこのプロジェクトを知ってもらい、それぞれの立場で参加してもらえる事を願っている。 最後に、2021年現在コロナウイルスが猛威を奮っている。今年度もラオスは閉じられており、プロジェクト実施の目処が立っていない。今後も様々な困難が予想されるが、今こそ日々の精進と忍耐が重要だと思っている。
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